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小説『ザリガニの鳴くところ』~ディーリア・オーエンズ著

 こんにちわ。
 コロンボです。

 今回は、2018年に書かれた、アメリカの小説『ザリガニが鳴くところ』を紹介します。

 著者は、ディーリア・オーエンズ。友廣純訳。


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ストーリー 

 舞台はアメリカのノースカロライナ州の湿地帯。1969年、沼の上で町の人気者でプレイボーイ的存在のチェイス・アンドリューズが死んでいるところを、少年たちが発見するところから始まる。

 

 主人公はカイアという少女。彼女は、湿地の奥の小屋で、貧乏白人(ホウィト・トラッシュ)として生まれ育つ。1952年、彼女6歳のまだほんの小さな少女。
 人里から離れ、街の白人からは差別されながらの生活を送っていた。彼女の父は、元軍人であったが、退役後は酒におぼれ、家族に暴力をふるう毎日。

 やがて、彼女の最愛の母は家族を置いて家を去り、兄弟も去り、ついには父も去り、彼女はたった一人、湿地の小屋で生きていくことになるのだった。

 

 物語は、1969年の殺人事件と、1952年からのカイヤの成長の軌跡とが並行して進んでいき、やがてカイアのストーリーが1969年に追いつくという構成になっている。

 

 カイアは、外の人たちとはほとんど交流したことがなかったため、成長過程をほとんどたったひとりきりで過ごす。彼女の周りには、豊かな自然と、彼女が愛してやまない湿地の動植物にあふれ、彼女は動植物と会話をしながら、美しい少女に成長していくのである。

 

 しかし、そんな彼女にも、何人かの味方のような存在がいた。それは、テイトという少年は、彼女の兄の友人で、彼女に読み書きを教え、彼女の世界はそれによって大きく広がることになる。また、当時は差別の的であった黒人のジャンピン(ジャンピン夫妻がなんと優しく温かいことか)は、彼女に何とか生活の糧を得るすべを与えるのだ。

 

 思春期を迎えた彼女は、テイトを愛し、そしてまた次は町のプレイボーイ、チェイスとも知り合い、彼を愛するようになる。

 

 彼女は成長し、成人になった。おりしも、その時に起こった、チェイスの殺人事件。

 彼女は、チェイス殺しの容疑者となり、裁判にかけられるのである。

 

 感想など

  感想を言ってしまえば、この物語はまるでキラキラした宝石箱のように美しくて、心のどこかにずっと大切にしまっておきたくなるような物語だ。そして大いに感動する物語でもある。

 

 カイアの少女時代から思春期までの心の成長。思春期に現れる自制心と本能的な心と体の揺らぎを、とても鮮やかに描き出していて、読む方も非常に気持ちを揺さぶられるのである。

 

 そして、チェイス殺人の容疑者となったカイアの裁判の場面は、とてもスリリングで、ドキドキしてしまうのだ。

 

 そして、彼女の強さ、自然や動植物に対する愛情、そして彼女を愛する人々の優しさ。すべてがこの物語に輝きと、溢れんばかりの生命力を与えているのである。

 

 「湿地の少女、カイア」は、本当に愛しく、その彼女の物語はきっと読んだ者の心に深く息づくことになるだろうと思う。

 

おわりに

 ところで、作者「ディーリア・オーエンズ」は少し異色な経歴を持つので、ちょっとだけ紹介しておこう。

 彼女がこの小説を書いたのが70歳になってからという。そして、彼女の小説としてはこれが最初の作品であるのだ。70歳にしてこの少女の心の、微妙なひだを描き、また純粋な心をこれほどまでにピュアに描いていることには驚きである。

 それまで彼女は、動物学で学士号をとるなど、学者として有能で、カイアと同じようにアフリカ、カロライナ州の山中に身を置き、自然に親しんだ生活を送ってきたらしい。
 そんな彼女だからこそ、作中の動物や植物の描写はとても美しくて鮮やかに書くことができたのだろう。

 そして、小説を書くという夢を幼いころから持っていて、ようやく70歳にしてその夢をかなえたのである。彼女のたくさんの知識と想いとが詰まったこの物語が、これほど胸を打つものになっているのはうなずける話である。

 

 最後に小説の中で、生き物の生命力の根源を表しているような、とても印象深い文章を紹介して、終わりにしようと思う。

 

 ここには善悪の判断など無用だということを、カイアは知っていた。そこには悪意はなく、あるのはただ拍動する命だけなのだ。たとえ一部の者は犠牲になるとしても、生物学では、善と悪は基本的に同じであり、見る角度によって替わるものだと捉えられている。

 

 

  ではまた~☕

 

ザリガニの鳴くところ

ザリガニの鳴くところ

 

 

 

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