小説「羊をめぐる冒険」~村上春樹の書く小説の主人公はどうしていつもタフなのか?
こんにちわ。
コロンボです。
村上春樹の「羊をめぐる冒険」(上)(下)を読みました。学生時代以来の再読なので、もうずいぶんと前に読んだきりですね。今回は、再読していろいろと思ったことなんかを書いてみたいと思います(^^)
はじめに
村上春樹は、新作はもちろん待ち遠しいんだけれど、昔の本であったり、過去に一度読んだものを再読するのも、それはそれで面白い。
読めば読むほど、新しい発見がある作家なんだと思います。
というか、もしかしたらよく似た話が多いから、再読することで他の彼の作品も同時に読んでいる気分になるのかもしれないですね。
今回、羊をめぐる冒険を再読して分かったことは、この作品は彼のその後の作品にいろいろつながっているんだ、とうこと。ある意味村上春樹の原点かもしれないと思いました。
最近の著書である「1Q84」にも通じるとこがあったり、もっといえば「騎士団長殺し」にもつながっているような。そしてさらに言えば、彼のあらゆる作品に、「羊」のエッセンスが含まれているようにさえ感じてしまいました。
そのことを、職場の同僚に話すと、「やっぱり村上春樹って、ずーっと同じことを書き続けてるよねぇ」と言ってました。
まさに、その通りだと思いましたね。ずーっとおんなじことを書き続けている。でもそれでも毎回新しさがあって、面白い。そこが村上春樹をして村上春樹たらしめているところなんでしょうね(^-^;
はじめて海を渡った作品
ところで、この「羊」は、村上春樹の小説の中ではじめて本格的に海外(特にアメリカ)で翻訳されて売り出された本なんです。
タイトルは「A WILD SHEEP CHASE」。
日本のタイトルはどこかふわふわしてるけど、英語のタイトルの方はなんかちょっとゴツゴツした語感がありますね。
そのころ(1989年)にアメリカで読まれていた日本の作家は、川端康成、谷崎潤一郎、三島由紀夫たちで、「ビッグ・スリー」と言われていたらしい。
しかし、彼らも同時代感がなくなってきていて、そこで同時代の作家として登場したのが村上春樹だったんですね。
この辺りは、辛島デイヴィッドの「Haruki Murakamiを読んでいるときに我々が読んでいる者たち」に詳しく書かれています。
Haruki Murakamiを読んでいるときに我々が読んでいる者たち
- 作者: 辛島デイヴィッド
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この本はまだ読んでいる途中なんですが、村上春樹がどのように海外で読まれるようになったのか、を書いていて、とても面白くて興味深いです。
村上春樹とレイモンド・チャンドラー
知っている方も多いと思いますが、村上春樹はアメリカのハードボイルド作家、レイモンド・チャンドラーのファンとしても有名です。
彼の本「ロング・グッドバイ」を、春樹自身が翻訳もしています。
ロング・グッドバイ (ハヤカワ・ミステリ文庫 チ 1-11)
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レイモンド・チャンドラーの小説は、フィリップ・マーロウという探偵が、なかなかにヘビーな事件に巻き込まれながら解決していくという、ガチガチのハードボイルドです。
ところが、村上春樹自身が何かで語っていたんですけど、「羊をめぐる冒険は、レイモンド・チャンドラーのような作品を書きたいと思って書いた本」だ、ということです。
レイモンド・チャンドラーの作品では、主人公の探偵が、いろんな事件に巻き込まれ、捕まって、どこかに連れ込まれ、あるいは自分から危険な場所に飛び込んだり、暴力を受けたり、そして魅力的な女性が出てきたりします。
なるほど、どこか「羊」と似てないこともないですね。もちろん、チャンドラーをより日本的に、かつかなりセンチメンタルにした感じに仕上げていますけど(^-^;
でも、そう考えると、村上春樹の書く小説の主人公がいつもタフだという理由が分かったような気がしますね。
そして今回読み返してみてあらためて、「羊をめぐる冒険」が純文学なんだと強く感じました。文体や表現がとても繊細で、いい意味でまどろっこしくて、どこか瑞々しいんです。情景描写も心情にリンクさせながら非常に丁寧に書いています。
そして、終わり方は、静かで、そして少しだけ寂しいんです。
設定やタイトルがユニークではありますが、あらためてとてもいい作品だ、とおもいました。
そして、この作品が海外進出の足掛かりになった作品であること、レイモンド・チャンドラーのハードボイルドを下敷きに?して書かれたことを、頭の片隅に置きながら読むと、さらに興味深く読むことができました。
では、また~☕
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