小説『マチネの終わりに』~深くて大きな感動の海に導いてくれる。この本に出会えて本当に良かった。
こんにちわ。
コロンボです。
平野啓一郎氏の小説『マチネの終わりに』、読了しました。
この小説はここ数年の内に読んだ小説の中で、最も良かった小説だと思います。
読み終えて、その感動のまま勢いでこのブログを書き出したんですが、思いが先走ってしまいうまくまとめることができなかったので、少し時間をおいて冷静になってから書くことにしました。
基本情報
- タイトル 『マチネの終わりに』
- 著者 平野 啓一郎
- 出版 2016年
- ジャンル 恋愛小説、純文学
- 出版社 毎日新聞出版
平野啓一郎と言えば、京都大学法学部出身で、1999年にデビュー作『日蝕』で第120回芥川賞を受賞。その時からしばしばテレビなどのメディアにも出演するので、ぼくはそのころからなんとなくその存在を意識はしていたんですが、去年雑誌の文學界に掲載されていた『ある男』という作品を読むまでは、彼の作品に触れたことはありませんでした。でも、はじめて彼の『ある男』を読み、面白かったためにこの『マチネの終わりに』を読んでみることにしたんです。
ストーリー
天才ギタリストの蒔野(38)と通信社記者の洋子(40)。
深く愛しあいながら一緒になることが許されない二人が、再び巡り逢う日はやってくるのかーー。
出会った瞬間から強く惹かれ合った蒔野と洋子。しかし、洋子には婚約者がいた。
スランプに陥りもがく蒔野。人知れず体の不調に苦しむ洋子。
やがて、蒔野と洋子の間にはすれ違いが生じ、ついに二人の関係は途絶えてしまうが・・・。
芥川賞作家が描く、恋の仕方を忘れた大人たちに贈る恋愛小説。Amazon内容紹介より引用
最初、この本の内容紹介を読んだときには、「失楽園」のような不倫的な物語を連想してしまいました。しかし、読んでみればまるでそうではありませんでした。
出会った2人は、純粋に愛し合い、何も悪いこと、やましいことはしていない。しかし、運命に翻弄され、かつある人物によって2人の関係を強引に捻じ曲げられ、歪められたことによって、互いに違った道を歩んでいくことになるんです。そしてその結果、引用にあるように「一緒になることが許されない二人」になってしまうんです。
あの時こうしていれば、今の人生はまるで違っていたものになっていただろう。しかし、回り始めた歯車は止めることができず・・・
久しぶりに早く次を読みたい、と時間を惜しんででも先を読みたくなるような小説でした。読み進めていくうちに、次第に物語の中にどんどんと引き込まれていってしまいました。
まるで、ぼくの心のどこかにある読書筋のようなものものをグッと鷲づかみにされてしまったかのようでした。
二人は、いつも何らかの状況によって、しっかりと会うことができません。そのあたり読んでいて非常にもどかしく思うのですが、ある時、ある人物によるある決定的な行動によって、二人はほとんど永久に離れ離れになってしまうのです。
そのきっかけを作った人物には憤りを感じずにはおれません。しかし、当の二人はそのことには一切気づかずに、いわばお互いに身を引くような形で別れてしまうのです。
二人の心は、その時もその後もずっと惹かれ合っているにもかかわらず・・・
物語の魅力
この小説は、蒔野と洋子の恋愛を軸に語られていきますが、決してそれのみの要素で成り立っているわけではありません。
蒔野の人物像やクラシックギタリストとしての苦悩。洋子の生活環境や仕事、そしてものの考え方。そして彼らを取り巻く人物たちや社会情勢に至るまで。それらがとても緻密に、丁寧に描かれています。
様々な要素が複雑に絡みあいながらこの物語は編み上げられているのです。
また、心理描写についても非常に深く、かつ文学的に表現しているので、物語に厚みができ、なおかつ作中の人物がとてもリアルで立体的に浮き彫りになってくるんです。
そして気が付けば、読書している自分が登場人物にひどく共感して、肩入れをして、自分の心が非常に激しく波立っているのを覚えずにいられなくなっていくんです。
おわりに
『マチネの終わりに』は、とても純粋で、とても切なくて、とても素晴らしい小説でした。
「切ない」、という言葉だけでは言い表せないくらい、やりきれない思いを抱いてしまう物語でもあります。
しかし、それでもどこかに何らかの希望の光を最終的に感じさせてくれるところがこの作品の素晴らしいところなのかもしれません。
人生は、本当にどのような方向に転んでいくかわかりません。あの時にこうしていれば・・・あるいはこうしていなかったならば・・・
今ある人生は、ほんの少しの選択の違いで、ほんのわずかな状況のずれによって、まるで別の人生になっていたのかもしれない。
変わらなかったはずの人生を選んでいれば、彼ら二人はどのような素晴らしい人生を歩んでいたのだろうか、あるいは変わってしまった人生で生まれてきた愛着のようなものに対してはどう向き合っていけばいいのだろうか。
すべてに対して赦しを与えられるほど人は優しくはないけれど、どこかでーーたとえ何者かに歪められた人生であってもーー折り合いをつけて生きていかなければならない。
しかし、予測不能な、状況によっていくらでも変わりうる「変数」のような、極めてかすかな光にも似た可能性を胸に抱いて生きていくこと、そのことの切なさと哀しさ、そして希望を教えてくれる作品でした。
小説の中で何度も語られる、「未来は過去を変えることができる」という言葉。
未来によって、彼らの過去はどのように変えられたのか? また変えることができるのか?
最後の最後まで、強く惹きつけられ、そしてとても考えさせられる作品でした。
この本に出会えて本当に良かったな、とさえ感じてしまいました。
では。
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