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『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』 ~ 最後の独白にすべてが詰まっている

こんにちわ。
コロンボです。

 村上春樹の長編小説、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』。


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 作品について

 本作品は1985年に発表され、第21回谷崎潤一郎賞を受賞しています。村上春樹にとって4作目の長編小説で、ちなみにそれ以前の長編小説は次のようになっています。

・1979年 風の歌を聴け
・1980年 1973年のピンボール
・1982年 羊をめぐる冒険
・1985年 世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド

ストーリー

 ストーリーは、「世界の終わり」という壁に囲まれた閉鎖的な世界と、「ハードボイルド・ワンダーランド」という、現実の世界がパラレルで展開されていきます。
 「世界の終わり」では「僕」という主人公が、自分の影を切り離され、心を失った人々の住む街で生活をしながら、夢読みという特殊な仕事を行うことになります。
 「ハードボイルド・ワンダーランド」では、計算士という職に就いている「わたし」という主人公(男)が、知らないうちに脳の回路に細工を施され、そのせいで命の危機が迫りつつあるという信じられない現実を知り、少女とともに助かるために困難に向って行きます。
 最後にはどうなるのか、読みながら予想がつかない展開が繰り広げられていきます。


 以前にも一度書きましたが、この本は再読になります。

 

https://www.semimarucoffee-y.com/entry/2018/09/14/113317www.semimarucoffee-y.com

 とにかく、破天荒な世界が描かれていて、村上春樹ワールドが全開なのです。SFとも、ファンタジーとも呼べるかもしれませんし、もしかしたらどちらでもないのかもしれません。
 もちろん、村上春樹の代名詞ともいうべき、彼特有のユーモアを含んだ比喩や会話、表現、描写などがふんだんに組み込まれています。

 途中、暗闇の中を進む場面が何ページも続いていて、「なんでただ暗闇を進むだけの場面がこんなにも長々と書かれているんだろう」、と思ったりしますが、それでもなぜか面白くて読んでしまうんですね。

ハードボイルド・ワンダーランドとは

 まず、この本を目にしたとき、この独特のタイトルに惹かれるのでなないでしょうか。わけがわからないけど、なんかかっこいいですしね。
 なかでも、ハードボイルド・ワンダーランドってなんなんだ、と、読みながらずっと考えてました。
 で、考えてみると、村上春樹の書く主人公って、みんな物事に動じない性格で、とてもタフじゃないかって思いに至ったんです。いつでも落ち着いた、起伏の少ない話し方をしていて、一見決断力の乏しい優柔不断な主人公が多いように思えるのですが、実は何があってもうろたえず、騒がず、実にタフな性格なのではないかと思うのです。 
 この物語の中でも、悪漢に対しても常に平常心で対峙しているし、痛めつけられてもめげずに立ち上がるし、自分の命が失われると知っても、比較的冷静にその事実を受け止め、受け入れていますし、ある意味とてもタフに生きています。

 なので、「だからハードボイルドなのか」と途中から妙に腑に落ちてしまいました。

 村上春樹の好きなアメリカの作家に、レイモンド・チャンドラーという作家がいて、彼がハードボイルドの探偵小説を書くのですが、村上春樹の書く主人公も、チャンドラーの書く主人公とは性質は違うけれど、ハードボイルドな性格という点ではつながっているのではないかな、などとこの作品を読んで感じました。

物語の結末

 ここでこの話の結末を書こうとは思っていませんが、結末についてはかつて読んだ時の記憶とは違っていましたし、途中も忘れていることが多かったので、再読してとても良かったし、その意味でもとても面白かったですね。
 最後はどうなるのだろうと、いろいろ想像しながら読み続けられました。
 結末については、村上春樹自身も、「村上さんのところ」という本の中で、

”「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」は、最後の結論がどうしても定まらなくて、いくつかのヴァージョンを書きました。”

 と言っているところが興味深いですね。それほど、いろんな展開が想像ができる本だ、ということなんでしょう。

最後の独白が圧巻でした

 先にも書いたように、主人公はとてもタフで、どのような問題に直面しても慌てたり動じたりすることはありません。常にクールに客観的に自分を見ています。
 自分の命がどうなってしまうかわからなくても、ユーモアを持ち、出会う人たちと普通の会話をし、普通に関り、そして冷静に観察します。
 しかし、最後の最後になり、本当に自分が失われるかもしれない、となった時に始めて、これまで出会った人たちや、これまでの人生を振り返り、これまでの人生の大切さを知り、それを失うことの寂しさや悲しさ、この世界への執着心を数ページにもわたって語るのです。
 それまで、一貫してクールに生きてきた主人公が、

”私はこの世界から消え去りたくなかった”

 と、言うのです。クールでハードボイルドを演じていた主人公が初めて本来の弱さをみせた場面でした。もしかしたら、ここにすべてが詰まっているのかもしれない、とさえ感じてしまいました。

 

 そして、不安と期待を抱いたまま、物語は最終章に入って行くのです。

 

    この本は、静の世界である「世界の終わり」と、動の世界「ハードボイルド・ワンダーランド」という全く印象の違う世界が交互に語られるうちに、その二つの世界がまるでメビウスの輪のように次第にリンクしていく構成が面白いですね。

    そして、心というものに焦点を当てた、とてもハードで、美しくて、そしてとても切ない作品なのです。

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 全2巻 完結セット (新潮文庫)

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